【コラム】:消極損害その1 休業損害(5)

2021-09-17

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

 

消極損害その1 休業損害
3.無職者
(1)失業者
   収入がなければ休業損害は生じませんが,労働能力及び労働意欲があり,就労の蓋然性があるものは認められます。例えば,就職が内定している場合,就職活動中である場合は認められやすい傾向があります。
   基礎収入は,平均賃金より下回ることが多いですが,退職前の会社の年収や,内定している会社の年収が認められることもあります。

・ 前事故で無職になったスタイリスト・デザイナーにつき,本件事故直前には就労可能の程度まで前事故に起因する障害が回復しており,就職活動をしていた矢先の事故であったことから,賃金センサス女性全年齢の8割を基礎収入として算定した。
・ アルバイトを退職して休職中の被害者につき,退職した翌日に事故に遭ったことなどの事情から,退職前のアルバイト収入を基礎として算定した。
・ 定年退職後,雇用保険受給中の被害者につき,雇用保険受給期間満了後は退職会社に再雇用される可能性があったとして,期間満了後から症状固定まで,賃金センサス男性学歴計60歳から64歳を基礎として算定した。
・ 元大工につき,稼働先を探していたことなどから,大工として稼働する意思と能力があり,専門技術性に照らし後進の指導も含めて稼働先が見つかる可能性も十分あったとして,賃金センサス男性学歴計60歳から64歳の8割を基礎として算定した。
・ 離職して積極的に就職先を探していたアルバイト中の被害者につき,事故前年の給与収入額を基礎に,症状固定までの期間から職を得られるまでの相当期間90日を控除した期間が認められた。
・ 著名私立大学卒業後,米国留学をしてMBAの資格を有する被害者につき,事故前に離職していたが,事故直前に就職先が内定しており,その会社から年俸,成果報酬ボーナス等の内諾を得ていたことから,その年俸を基礎に事故日から2ヶ月間は100%,その後3ヶ月間は60%,その後症状固定まで30%が認められた。
・ 約1年半前に運送業を廃業後無職の被害者につき,具体的な就職話があり健康で就業意欲もあったこと,休職期間等を考慮して,事故から3ヶ月後には運転手の仕事に就く蓋然性が高かったとし,賃金センサス男性学歴計60歳から64歳の7割を基礎として算定した。
・ 事故前に就職を申し込んでいた会社から事故後に採用の通知を受けた被害者につき,治療期間中に就労を開始したが10日で受傷部の痛みのために休職し,そのまま退職していること等から,会社から支給される予定だった給与を基礎として算定し,就労により得た給与を控除して認められた。
・ 前事故で高次脳機能障害の被害者につき,本件事故当時は職業訓練を受け事故の約3週間後から障害者雇用枠で就職予定であったが,本件事故により障害者雇用枠で就職する機会を逃し,また,受傷後歩行障害により終了できない状態にあったとして,就職後得られたであろう賃金を基礎として算定した。
・ 職業訓練生兼短期アルバイトにつき,事故翌月に職業訓練が終了した後の就職先は未定で,直ちに就職できた可能性は低いこと,事故後に就業して賃金を得ていたこと等を考慮し,事故前の勤務先における年収や年齢等から,賃金センサス男性学歴計全年齢の約6割強を基礎として算定した。
  ・ 就労による収入を得ていなかった家業手伝いの被害者につき,相当程度の就労の意欲があったことから,事故発生1年後以降は就労する蓋然性があったとして,同日から症状固定までを休業期間としたが,若年であり就労する職種や労働内容に具体的なみとおしがあったとは認められないため,賃金センサス男女計学歴計18歳から19歳を基礎として算定した。
  ・ 無職につき,事故の4ヶ月前までは飲食店を自営しており閉店した理由は不景気であったこと,その後就職した会社を1ヶ月で辞めた理由も労働能力とは必ずしも関係がなかったことから,既存障害があったとしても休業損害を観念し得ないほど労働能力が低下していたとはいえないとした上で,事故の直前まで最終書に向けてハローワークに通い面接に参加するなど勤労意欲があったことから,直前の会社での月額賃金を基礎として,症状固定までの期間から職を得られるまでの相当期間90日を控除した期間が認められた。
  ・ 退職後1ヶ月の休職中の被害者につき,退職前の収入を基礎として算定した。
  ・ 一人暮らしで休職中の被害者につき,事故前は派遣社員として就労していたが,資格試験の勉強のために派遣社員を退職し,週末は実家に戻り,高齢の母の世話及び重度知的障害を有する弟の介護を行っていたことから就労の蓋然性があったとして,被害者の労働を収入に評価し,賃金センサス女性学歴計全年齢平均の50%を基礎として,事故日から症状固定日までの412日間について50%労働制限として,認められた。

 

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,2年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 弁護士法人しまかぜ法律事務所では,失業者の休業損害は,労働能力,労働意欲,就労の蓋然性をを証明するために,どのような資料を揃える必要があるかアドバイスさせていただき,適正な休業損害を請求しています。失業者の休業損害の請求事例も多数ありますので,適正な賠償額で解決するためにも,ぜひ,ご相談ください。