【コラム】:消極損害その1 休業損害(4)

2021-09-13

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

 

消極損害その1 休業損害
2.家事従事者
家事従事者とは,家族のために料理,洗濯,掃除等の家事労働を行う人のことで,年齢・性別を問いません。両親のために家事をする子供や内縁の夫のために家事をする内縁の妻も,家事従事者となります。
家事労働の対価として報酬は発生しませんが,最高裁判所は,家事労働は財産上の利益を生ずるものであって,これを金銭的に評価することは可能であり,負傷のため家事労働に従事することができなかった期間は,財産上の損害を被ったものというべきであると,家事従事者の休業損害を認めています(最判昭50.7.8日 交民8・4・905)。

家事従事者の休業損害の計算方法は,自賠責保険基準では、基礎収入を6100円(令和2年4月1日より前に発生した事故は5700円)として,基礎収入×休業日数で計算します。
弁護士基準(裁判基準)では,賃金センサスの女子全年齢平均賃金の年収を基礎収入にします(令和元年は388万0100円,日額1万0630円)。計算方法は,基礎収入日額×休業日数(入・通院日数とされることが多い)と,主婦業がどの程度制限されたかで段階的に請求する逓減方式(例:事故から1ヶ月間は入院で100%,2ヶ月~3ヶ月は主婦業が80%制限,4~5ヶ月は60%制限,6~7ヶ月は40%など)のいずれかになります。

  兼業主婦(主夫)については,現実の収入額と賃金センサスの女子全年齢平均賃金のいずれか高い方を基礎として算出します。

 

(1)認定例
・ 主婦につき,事故により家事ができなかった場合に,その期間の家政婦雇用費を認めた。
・ 妊娠中の専業主婦につき,出産のため入院した8日間を除き,受傷日から出産のための入院の前日まで100%,退院の翌日から90日間は60%,その後症状固定までは30%が認められた。
・ 事故前からうつ病で通院し睡眠導入剤の処方を受けていた主婦につき,心身健康な専業主婦であることを前提とする賃金センサスによる額を基準とはできないとの加害者主張を採用せず,賃金センサスの女子全年齢平均賃金が認められた。
・ 聴覚障害者である主婦につき,賃金センサスの女子全年齢平均賃金を基礎に,入院を含めた当初半年は100%,その余は50%が認められた。
・ 夫が医療保護入院していた被害者につき,事故当時,家事労働を行っていたとは言い難い面があるが,事故に遭わなければ夫の見舞いに行って身の回りの世話をするなどの家事労働に従事していた可能性も否定できないとして,30%が認められた。
・ 娘と家事を分担し,記事を雑誌に寄稿したり講演活動をしていた被害者につき,賃金センサスの女子学歴計65歳以上の平均80%を基礎に,当初100%,その後30%が認められた。
・ 求職中の主婦である長女夫婦と同居し,同人らのために掃除,買い物,クリーニングの依頼・受取,夕食の下ごしらえ等家事を補助していた被害者につき,賃金センサスの女子学歴計70歳以上の4割を基礎に,200日間が認められた。
・ 専業主婦につき,夫と2人暮らしであり,本件事故で夫が死亡し,事故後は他人のために家事を行う状況でなくなったところ,自分のためだけに家事を行う者に休業損害は認められないのが原則であるが,夫のために家事に従事しなければ,他で働いて収入を得る選択肢もあったと考えられ,夫を死亡させたのが加害者であることから,休業損害を認めないのは相当でないとして,賃金センサスの女子全年齢平均賃金を基礎に,89日間が認められた。
(2)兼業主婦の事例
・ 有職主婦につき,事故日から症状固定まで506日間,75%の労働能力の制限があったとして,賃金センサスの女子全年齢平均賃金を基礎に認められた。
・ 育児休業中に事故に遭った会社員兼主婦につき,職場復帰予定日に復帰できなかった場合に,育児休業中は賃金センサスの女子全年齢平均賃金を基礎に,復帰予定日から実際に復帰した日までは育児休業前の年収を基礎として認められた。
・ 英語教室開設兼主婦につき,症状が強度であること,事故後約3ヶ月後から英語教室を再開したが生徒数が減少して契約を打ち切られ教室を閉鎖したこと等から,入院期間は100%,退院後約1年は60%,その後症状固定まで35%が認められた。
・ 病院教授秘書兼主婦につき,有職部分付いては,代替する者がいなかったため無理して出勤し減収は無かったが,仕事の効率の低下を無報酬での残業や休日出勤により補っていたことから,賃金センサスの女子全年齢平均賃金を基礎に,事故日から52日間は40%,それ以後症状固定までは20%として認められた。
・ 生活保護とヒプノセラピストで生計をたて,息子,娘と同居し家事をしていた主婦につき,賃金センサスの女子高卒45歳から49歳を基礎として,当初90日間を90%,次の60日間を50%,残りを25%として認められた。
・ パート勤務につき,事故当時内縁の夫と同居し,主に内縁の夫の収入で生計を立てていたことから,症状固定後に内縁を解消したとしても事故時において家事従事者として,休業損害が認められた。
・ 老人ホームの介護職として就労する主婦につき,事故後約20日で復職しているが,体に負担がかかる仕事は他の職員に代わってもらうなどしていたことから,当初80%,その後40%,その後20%が休業損害が認められた。
・ クリーニング工場パート兼主婦につき,主婦として一家の家事全般に従事するとともに,週3回程度のパート勤務を行っていたことから,入院中は100%,その後は家族の援助のもとで炊事,洗濯等一定範囲の家事に従事していたことや高次脳機能障害の程度などを考慮し70%が認められた。
・ 夫が経営する複数のクリーニング店の業務に従事しながら,その本店に夫と住み込み家事労働にも従事する被害者につき,入院中は100%,その後リハビリ終了まで50%,その後症状固定日まで25%が認められた。
(3)男性の家事従事者の事例
・ ダンスインストラクターの被害者につき,基本的には内縁関係にある交際相手の稼働収入によって生活し,同人のために炊事や洗濯等の家事をしていた兼業主夫の状況にあったとして,賃金センサスの女子全年齢平均賃金を基礎に,通院実日数,1日あたり半日の限度で認められた。
・ 妻が正社員として働き,専業主夫として洗濯,掃除,料理等の家事労働を行っていた被害者につき,賃金センサスの女子全年齢平均賃金を基礎に,入院中は100%,通院中は25%として認められた。
・ フルタイムで仕事をする妻及び二女と同居していた無職者につき,日常的に家事労働に従事していたとして,賃金センサスの女子学歴計65歳以上から既存障害分を控除した金額を基礎として認められた。
・ 脊柱管狭窄症等を患っていた妻と同居していた被害者につき,主たる家事従事者と認め,賃金センサスの女子学歴計65歳から69歳を基礎に,通院期間の30%が認められた。
・ 寝たきりの妻の介護を行っていた被害者につき,妻の介護を行っていたことを家事労働と認め,賃金センサスの女子学歴計65歳以上の80%を基礎に,事故日から妻が死亡した日まで認められた。
  ・ 入退院を繰り返していた妻及び娘と同居し,妻に代わって家事の多くを分担していた被害者につき,家事労働を月額18万円と評価し,事故日から76日間は100%,それ以降症状固定までは75%を認めた。

 

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,2年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 家事従事者の休業損害は保険会社に否定されることも多いですが,弁護士法人しまかぜ法律事務所では,家事従事者の休業損害の請求事例が多数ありますので,適正な賠償額で解決するためにも,ぜひ,ご相談ください。