【コラム】:消極損害その1 休業損害(3)

2021-09-03

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

 

消極損害その1 休業損害
1.有職者
(3)会社役員
   会社役員が受け取る役員報酬には,実際の労務提供の対価としての報酬と,労働しなくてももらえる利益配当の実質をもつ報酬の2種類が含まれています。利益配当の実質をもつ報酬は,休業してももらえるため,減額されても休業損害ではありません。一方、労務提供の対価としての報酬は,減額されれば休業損害として認められます。   
   労働の対価としての報酬は,企業規模や報酬額,実際の仕事内容などによって算定されます。
   会社役員で休業損害が認められた事例の一部を紹介します。
  
・ 建物解体工事・建材卸業等を目的とする会社の代表者につき,個人会社で被害者の職務内容も肉体労働が多いこと等から,役員報酬全額を労務の対価と認めた。

・ 会社役員であるが,名目的取締役で,従業員として労働に従事していた被害者につき,事故後報酬の全額が支給されていないことから,役員報酬部分についても労働の対価と認めた。

・ 鉄工業を目的とする会社の代表者につき,賃金センサス,他の役員報酬や従業員の賃金との比較等を併せ考えて役員報酬額の7割を労務の対価と認めた。

・ 父親の経営する印刷会社の監査役につき,会社の中心的な働き手として稼働していることから,会社から得る収入はその労務の対価として不相当なものとはいえないとして,事故前年年収全額を基礎とした。

・ 夫が代表取締役の同族会社でで肉体労働に従事していた専務取締役につき,休業中でも人員の増員はなく,売上・利益とも横ばいもしくは増加する一方,他の役員報酬が増加したり,復職後軽作業であることから,実質的な利益配当部分は少なくとも40%として,年収の60%を基礎とした。

・ 兄の経営する印刷会社の専務取締役につき,会社の規模,利益状況に加え,実質的な営業活動をしていたこと,事故後の役員報酬の減少状況,学歴等に照らし,控えめにみても報酬のうち労務対価性のある部分は70%とした。

・  会社役員につき,事故後は業務に従事できず役員報酬が一切支給されなかったこと,復職後は業務量が事故前より30%程度減少しているにもかかわらず事故前と同水準の収入を得ていることから,役員報酬のうち労働と対価的関連性を有する部分を,一般的な労働者が得るであろう平均的な賃金の2倍程度とした。

・  美容院を営む会社の代表者につき,同社で稼働していたのは代表者のみであることから,事故前3ヶ月の会社の売上から経費を控除した金額を基礎収入とした。

・ 印刷機器の販売等を業とする会社の代表取締役の休業損害につき,会社が1人会社であり,親族が経理事務を手伝うほかは,代表取締役が単独で業務を行っていたと認められるとして,役員報酬全てを労務提供の対価と認めた。

 

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,2年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 特に休業損害は,支払われないことで生活が困窮する場合もありますので,ひとりひとりの事情を詳しくお伺いして,適正な金額を請求することが大切です。
 弁護士法人しまかぜ法律事務所では,会社役員の休業損害の請求事例も多数ありますので,適正な賠償額で解決するためにも,ぜひ,ご相談ください。